「ChatGPTの利用料金は、なぜ使うたびにかかるのか?」
この疑問の答えが、「推論(Inference)」という概念にあります。
AIの世界では「学習」と「推論」は明確に区別されており、それぞれ異なるコストと計算リソースが必要です。
この記事では、AIの推論について、学習との違いから最新動向まで解説します。
推論とは?
一言で言うと
推論とは、学習済みのAIモデルを実際に使って、新しいデータから結果を出力するプロセスです。
- 学習:AIモデルを「作る」段階
- 推論:AIモデルを「使う」段階
ChatGPTに質問するとき、裏側では推論が行われています。
学習と推論って、具体的にどう違うんですか?
例えるなら、学習は「教科書を読んで勉強する」こと、推論は「テストで問題を解く」ことです。ChatGPTは何度も学習を繰り返して賢くなり、私たちが質問するたびに推論で回答を生成しているんです。
推論の仕組み
推論のプロセスは以下のように進みます:
入力データ → 学習済みモデル(内部で計算処理) → 出力(予測・生成結果)
LLMの場合、入力は「プロンプト(質問文)」、出力は「回答テキスト」です。モデルは入力を受け取り、学習で獲得したパターンに基づいて、次に来る単語を確率的に予測・生成します。
学習 vs 推論の比較
| 項目 | 学習(Training) | 推論(Inference) |
|---|---|---|
| 目的 | モデルを作る | モデルを使う |
| 頻度 | 一度(または定期的) | 継続的・リアルタイム |
| 重視点 | 精度・学習効率 | 速度・低遅延 |
| 計算量 | 非常に大きい | 比較的小さい |
| GPU数 | 数十〜数千台 | 1〜数台 |
| 時間 | 数週間〜数ヶ月 | 数秒〜数ミリ秒 |
学習のコスト
大規模モデルの学習には莫大なコストがかかります。
- GPT-3:学習に1,287MWhの電力消費(米国130世帯の年間消費量)
- GPT-4:開発コスト推定約7,000万ドル(約100億円)
- Gemini 1:開発コスト推定1.5億ドル以上(約200億円以上)
推論のコスト
一方、推論は1回あたりのコストは小さいものの、「使うたびに」発生します。
学習は一度で済みますが、推論はユーザーがリクエストするたびに発生します。利用者が増えるほど推論コストは積み重なり、多くのサービスでは長期的に見ると推論コストの方が大きくなります。
LLMにおける推論の特徴
トークン単位の生成
LLMの推論は、トークン(単語や文字の単位)を1つずつ生成する「自己回帰」方式です。
- 入力: "AIとは"
- 生成1: "人工"
- 生成2: "知能"
- 生成3: "の"
- 生成4: "略"
- ...
このため、長い回答を生成するほど推論コストが増加します。
推論時間に影響する要素
- モデルサイズ:パラメータが多いほど遅い
- 入力長:プロンプトが長いほど遅い
- 出力長:生成するトークン数が多いほど遅い
- バッチサイズ:同時処理数
APIの料金が入力と出力で別々に計算されるのは、そういう理由なんですね。
その通りです。入力トークンと出力トークンで計算コストが異なるため、多くのAPIでは別々の料金体系になっています。
推論の最適化技術
推論を高速化・低コスト化するための様々な技術があります。
1. 量子化(Quantization)
モデルのパラメータを低精度に変換して、メモリ使用量と計算量を削減します。
→ 詳しくは「量子化とは?」をご覧ください
2. KVキャッシュ
一度計算した「Key」と「Value」を保存し、再計算を省略する技術です。長い会話での推論を高速化します。
3. バッチ処理
複数のリクエストをまとめて処理することで、GPUの利用効率を高めます。
4. モデル蒸留
大きなモデルの知識を、より小さなモデルに「蒸留」して転写します。小さなモデルで同等の性能を実現できます。
2024年のトレンド:推論時計算
o1モデルの登場
OpenAIは2024年9月、「o1」モデルを発表しました。このモデルは推論時により多くの計算を行うことで、推論能力を大幅に向上させています。
- GPT-4o:国際数学オリンピック問題で正答率13%
- o1:同じ問題で正答率83%
「考える」AIの時代
従来のAIは「即答」が基本でしたが、o1のような「推論モデル」は時間をかけて「考える」ことで、より複雑な問題を解けるようになりました。
- 従来のLLM: プロンプト → 即座に回答
- 推論モデル: プロンプト → 思考プロセス → 回答
推論時の計算を増やすと精度は上がりますが、応答時間とコストも増加します。タスクの難易度に応じて、適切なモデルを選ぶことが重要です。
推論環境の選択肢
クラウドAPI
ChatGPT、Claude、GeminiなどのAPIを利用。
- メリット:初期投資不要、スケーラブル
- デメリット:利用量に応じたコスト、データを外部に送信
オンプレミス
自社サーバーでモデルを運用。
- メリット:データが外部に出ない、長期的にはコスト削減可能
- デメリット:GPU等の初期投資、運用負荷
エッジ推論
スマートフォンやPCなど、端末上で推論を実行。
- メリット:低遅延、オフライン対応、プライバシー保護
- デメリット:モデルサイズに制限、端末性能に依存
まとめ:AIを「使う」ということ
推論は、AIモデルを実際に活用するプロセスです。
推論の重要ポイント:
- 学習済みモデルで新しいデータから結果を出力
- 学習は「作る」、推論は「使う」
- 使うたびにコストが発生(長期的には学習より高くなることも)
- 量子化、KVキャッシュ、バッチ処理などで最適化
- 2024年は「推論時計算」で精度向上するトレンド
- クラウド、オンプレミス、エッジなど環境の選択肢
AI活用を検討する際は、「学習コスト」だけでなく「推論コスト」も含めた総合的な視点が重要です。